フラメンコ研究会
各メーカーのカスタネットの説明
スール社(Castanuelas del sur)
スール社は、様々な種類のカスタネットを製造・販売しています。基本は、高音質のフィブラ(合成樹脂)と呼ばれる板材を加工した手作りのカスタネットです。モデルによって形が違います。スール社のカスタの特徴として、両サイドがなだらかな曲線ですが、下の部分は厚みがあって、ストンと落ちるような形になっています(ただし、カプリッチョやマエストロ・モデルは全体にまるっこい形をしています)。サイズは5号サイズの場合、縦が90mm、横が70mmですが、固体差があります。6号サイズは少し小さいですが、音質を考えた場合、できるだけ5号サイズを買ったほうがいいです。
フィブラ・プリメラ
スール社のフィブラの基本モデルです。この上のモデルのベテアダとの違いは、赤いラインがないことですが、ベテアダよりも若干重いかもしれません(固体差もあるので、何んとも言えませんが)。演奏性はほとんど変わらないようです。長く使えて、できるだけ長く使いたい方は、このカスタがお勧めです。また、カスタネットは黒くなくちゃ、と思う方はこれしかありません。
フィブラ・ベテアダ
赤いラインが入った上級者向けの定番モデル。持っている人も多いのではないでしょうか。スール社の標準となるモデルで、音質もいいです。
フィブラ・ベテアダ・ドブレ・カーハ
double cajaとは、「二重のくり抜き」という意味です。通常のベテアダに比べて、軽量で、音の抜けがいいです。資金に余裕がある人はこのドブレ・カーハがお勧めです。
木製
スール社の珍しい木製カスタです。木の種類は黒檀やグラナディラが多いですが、写真のカスタの木の種類は不明です。フィブラとはだいぶ音が違って、木の素朴な音がします。ただ、入手が困難です。
フィブラ・ベテアダ・スペシャル
ベテアダの最高級(講師用)モデルです。涙型の形をしていて、通常のベテアダより縦長です。そのため、横幅が67ミリ前後狭いのが特徴です。また、親指の当たる部分の形も違います(カーブが緩やかです)。
フィブラ・ベテアダ・スペシャル・ドブレ・カーハ
上記のスペシャル・モデルのくり抜きが二重になったモデルです。通常のスペシャルより軽量で、音もよく響きます。
テラ
テラ(圧縮布)です。テラは布を樹脂で固めたものなので、長く使っていると、塗装がはげたり、毛羽立ってくることがありますが、sur社のテラは、耐久性を考えて内側(約2mm厚)がフィブラになっています。キンキンしない柔らかい音色で、他のメーカーのテラよりも素材自体が柔らかい感じがします。
フィリグラナ社(Filigrana)
フィリグラナ社は1950年に創業し、グラスファイバー製のカスタを作り始めたということです。カスタの作りを見ると、手作り感があまりないので、プラスチック製品、つまりプラスチックを溶かして型に入れて作っていると思っていたのですが(価格も安いですし)、音はやはりプラスチックではないです。グラスファイバーであれば、機械で加工していることになりますね。この値段で作れるということは、かなり自動化した機械で加工しているのでしょう。音質はやわらかく、キンキンしない音です。
ボレロ
ボレロはプロ用の定番になります。5号は縦のサイズがスール社の5号より短いので、手の大きい人は、7号サイズを考えるかもしれませんが、7号サイズはかなり大きく、音が低いです。ボレロにはくり抜きが3重になったもの、5重になったものがあります。音の違いについては、比較したことがないのでわかりません。
テラ
フィリグラナ社はテラ(布圧縮)のカスタも作っているはずですが、日本には入ってきませんね。写真のカスタは数十年前に作られたものです。テラは布を樹脂で固めたものですから、経年変化で塗装が劣化し、ささくれが出来るものがあります。
タレガ社(Jose Tarrega Peiro)
タレガ社は老舗のカスタネット製造メーカーで、あのルセロ・テナが使っていたことで有名です。フィブラ(合成樹脂)やテラ製(布圧縮)のカスタがありますが、サイズについては詳しいことはわかりません。後継者不足で現在は、廃業状態になっているそうです。
フィブラ
タレガ社のカスタは、モデルはフィブラとテラのみで、形も1つしかないようです。全体に丸っこいクラシカルな形です。写真のカスタはフィブラです。
playwood社
低価格で教育用として販売されているカスタネット。日本で設計し、東南アジアで製造されている製品と思われます。
CA-20MWB(ダブルホール、Mサイズ)
フィリグラナ社製とスール社製のいいところを組み合わせたような形をしていて、ある意味、一番叩きやすいカスタと言えます。このMサイズは、sur社の5号サイズに近いです。ただ、残念なことに、プラ製なのか音もプラスチッキーで、隙間が大きいので、甲高い音がします。やはり、学校の教育用という感じがあります。
最初に買うカスタネットは?
フラ研では、スール社のカスタを勧めているので、スール社のカスタを買う前提で説明します。最初に買うカスタは、最低限、プリメラ・モデル、できれば無理をしても、音質の良いフィブラ・ベテアダを買っておくのがいいです。フラメンコを長くやる決心がついている方は、フィブラ・ベテアダのドブレ・カーハ(二重の共鳴胴)のエスペシャルの購入をお勧めします。ドブレ・カーハは軽量で、音抜けがいいです。エスペシャルは、通常のベテアダより縦長デザインで叩きやすく、ピコと呼ばれる付け根にある凸が小さて扱いやすいです(ピコがないモデルもあります)。やはり、楽器というのは価格が高いほど使いやすく、音質がいいのです。
カスタの材質について
カスタで使われる材料として、黒檀やグラナディーロなどの硬木、
フィブラと呼ばれる合成樹脂、
テラと呼ばれる圧縮布があります。フィブラは音量があり、割れる心配もなく、扱いやすいのでお勧めです。木製のものは、いかにも木を叩いた音がするので、素朴ですが、好みが分かれますね。圧縮布のカスタは個人的には大好きなのですが、タレガ社がむかしから使っている材料と比較すると、スール社のテラは少し柔らかすぎて、音が軽い感じがします。むかしながらの硬質で重みのある圧縮布を使ったテラをスール社が販売したら、どんなに高くても私は買いますが、、
カスタの重量と音程について
初心者向けのカスタは重く、音程が高い(つまり、キンキンと甲高い)傾向があります。くり貫きが浅いほど、重くなり、音程が高くなります。ですから、初心者だからと言って、安いカスタを買ってしまうと、重くて使いにくい、音が甲高くてうるさい、などの理由で、結局買い換えることになるわけです。
カスタの調整方法
スール社のカスタは、イベリアさんで購入できので、できればお店で音を確認して買うのが一番いいのですが、なかなかそうもいかないので、通販を利用することになりますね。ここで、問題となるのは、スペイン製の製品の品質管理がかなりいい加減なことです。たとえば、左手用のほうが音程が低いはずなので、右手用のほうが音程が低かったあり、2枚の接点が1つであるはずが、接点が2つあって、まともに音がでないもの、2枚の隙間がほとんどなく、こもった音がするものがあるほか、極端な例ですが、左右のサイズが異なるものがあります(ケースに入れるときに間違えたのか?(笑))。左用が5号サイズ、右用が6号サイズ、のように左右のサイズが違っていたら交換してもらってください。
さて、サイズ違いは別として、接点が2つあったり、隙間がわずかでこもった音がする場合、返品/交換を申し込んでも、わかってもらえない可能性がありますので、自分で調整することになります。ヤスリと木片、金属磨きのピカールがあれば調整できます。ただ、やり直しが利かないので、慎重に作業する必要があります。私は以前、鼈甲製品(津軽三味線用のバチ)を作って販売していたことがあり、このような調整は割りと得意なのですが、一般の方は難しいと思うかもしれません。いずれ、写真付きで詳しく説明したいと思っています。お使いのカスタの音程を上げたり、下げたりできますので、やり方を覚えておけば役に立ちます。
カスタネットの買い方
日本の専門店で買うか、海外通販か
スペインのお店から個人輸入するという方法もありますが、今はユーロも高くなり、送料を考えると、あまりメリットがないように思いますね。先に説明しましたが、品質管理上の問題があり、返品なども面倒です。やはり、スール社のカスタであれば、イベリアさんで購入するのがいいです。お店まで行ける人は、現物を見て、音だし確認して買うのがいいです。イベリアさんでは、予告なしにカスタを割引販売することがありますので、セールの機会を利用してください。年に数回、3割引(2割引)で販売することもあるようです。
あとはヤフオクで中古を買う方法です。サイズ表記がいい加減な場合が多いので、質問欄からサイズを確認して買ったほうがいいです。